山陰・鳥取県 境港市(さかいみなとし)は鬼太郎をはじめとする妖怪と、サバ、アジ、カニなどのお魚が いっぱいのまち

秋の味(9月〜11月)

郷の味ごよみ−山陰の郷土料理−  山本富子(やまもと・とみこ)著書より
9月
梨・ふろしきまんじゅう・ゴズ(ハゼ)

 鳥取県が生んだ”二十世紀梨”は爽秋にふさわしい銘菓で、その生産額は全国随一という。梨の花は県花に、梨のみの淡緑色は国体選手のユニホームに取り入れられて県の象徴とされた。白い果肉が透けて見えるほど薄い皮は、しっとりとにじむような水分を含み、むけば甘い果汁がナイフを持つ手をしとど濡らす。比類のないこのみずみずしさこそ鳥取県の二十世紀梨の身上ともいえる。
 近県でもいろいろ研究されているが、他の追随を許さず、島根県の安来以東、鳥取県一円のものに限る。気候風土と密接な関係があるのだろうが、先人の血のにじむような苦労の積み重ねが今日の隆盛を招いたことを忘れてはならない。
 絣の着物の清楚な梨娘がプラットホームに現れて車窓の人のほほえみを誘う風景もある。国道9号線には随所に梨の直売所が設けられ、千か条も活況を呈する。
 国道9号線名物で見逃せないものに八橋の”ふろしきまんじゅう”がある。茶色の皮に赤あんを包んで蒸しただけの、見たところそれほどのものとは思えぬものだが、ひなびた風味がふんわりと口中に広がりいくら食べても飽きることがない。
 風呂敷包みのような形から”ふろしきまんじゅう”といわれて昔から八橋の名物だったが九号線の開通と交通量の増加にともなって、観光バスも立ち寄るようになった。いわゆる銘菓らしくない気取らない味が現代人の好みにぴったりとはまったのだろうか。
 彼岸の前後からは中海、宍道湖などでゴズ釣りがにぎわう。連れやすい魚だから家族連れで糸をたれて、のどかな気分に浸るのもこの上なく楽しい。

10月
茸・大山おこわ・秋サバ

 秋祭りの太鼓の音が鎮守の森にこだまして、実りの秋はたけなわとなる頃、梨につづいてぶどう、柿、栗、など山の幸が次々とお目見えする。
 島根半島では西条柿がドライアイスで渋抜きして出荷されている。また松茸をはじめ、各種きのこが出回り、炊き込みご飯に、吸い物に、蒸し物にと、秋の味覚が食膳をにぎわす。
 祭りや運動会のご馳走と言えば、伯耆地方でよく作られる五目おこわがある。近年大山おこわ”と名づけてテレビなどで紹介されて有名になった。スーパーで売り出されたり、日野郡では本場の味を食べさせる店もある。香茸や栗などが使われ、弓ヶ浜では赤貝などの魚介類を取り入れる。具にその土地の特色があるのがおもしろく、客膳にも喜ばれる。
 『秋サバは嫁に食わすな』という諺があるが、どういう意味なのか。とにかくサバは秋が深まるにつれてだんだん脂肪がのって味が豊かになる。境港、浜田港は裏日本でも屈指の巾着船の寄港地として栄えている。不漁続きだと灯が消えたように寂れるが、秋サバの大漁とあればたちまち活気付いて、荷揚げ作業や保冷車の出入りで岸壁はごった返す。
 見るからに活きのいいサバは、しめサバ、サバ寿司、味噌煮、なんにしてもおいしく、安上がりの総菜用として重宝する。
 京都には山陰から運ばれる塩サバで作られたという”ばってら”や”きずし”などの伝統のサバ料理があり、海の遠い土地の並々ならぬ工夫がうかがわれて、教えられる点が多い。

11月
松葉ガニ・ぼてぼて茶

 鳥取県の名産として二十世紀梨と並び称される松葉ガニが解禁になるのはこの月。
 資源が乏しいため、かなり高価だが、駅や国道筋の売店では相変わらず人気を呼んでいる。夏のアオテガニは胸の肉を食べるが、松葉ガニは爪の身が多い。やはり塩ゆでしたものを二杯酢で食べるのが一番だが、寒い日はカニすきや、寄せ鍋など温かい料理にもよくあう。
 駅弁にカニ寿司があり、山陰のたびはカニ寿司が楽しみという声も聞く。
 季節外には冷凍ものがあるが、カニの醍醐味を知る地元の者には物足りない味で、むしろ近年境港で水揚げされるベニズワイガニを代用したほうがよい。岸壁には港名物”カニ売りおばさん”がほとんど年中見られ、値段も手頃である。
 メスガニは形が小さいが”親ガニ”といわれ、卵を持っていて味噌汁の実にしたり、炊き込みご飯にすると素晴らしいコクがある。
 生垣の伸び放題の茶の木に咲く小さい茶の花はとりわけ風情のあるもの。

『茶の花の
 いまだ咲かぬは青み持ち
 いかにもすがし
 茶が飲みたくなれり』

 詠み人の名も定かではないこの歌がなぜか心に残っているのは”ぼてぼて茶”を子供の頃よく飲んだからかもしれない。この茶には日陰干しした茶の花を必ず入れねばならぬので見つけるとすぐに摘んだものだ。呉須茶碗にたっぷりと白い細かい泡を立てて、ありあわせのご飯やらおかずを入れて飲むのは茶というより軽食であった。松江では商家の朝飯代わりだったという。今でも松江の城山の茶店で所望できる。道具も一式揃っていて、今や”ぼてぼて茶”は静かなブームを呼んでいる。境港の老人クラブで道具を備え付け、集会の都度この茶を点てて楽しみ、昔語りのよすがとしているところがある。山陰の味として復活したいものの一つ。 


鯊(ハゼ)−淡白な味で応用広い
 ハゼが上がるころになった。またの名をゴズ。頭でっかち、色黒でさっぱり風采の上がらぬため食わず嫌いの人も多いが、姿に似ず淡白なうま味があって地元ではこの季節を待ちわびる。
 釣りたてはまず刺身、そのほか天ぷら、煮魚、酢の物などなんにでも向き、焼き干は甘露煮、昆布巻きの材料に絶好。だしにも使う。
 「海釣りはハゼに始まりハゼに終わる」とさえいわれる。ひと昔前まで、秋の彼岸前後の休日の中海は家族連れのハゼ舟で大賑わいだったものだが、近年ヘドロや干拓騒ぎで年々減りつつあるのは惜しい。ハゼはよっぽど食いしん坊で気前が良いと見え、素人の竿にでも簡単に引っかかる。このあたり、浜の人間の気質に少し似ているみたいだ。
 私は海辺に生まれ育ちながら全くのカナヅチで、船はいやだったが、こわごわ一度だけ職場のハゼつりに参加したことがある。空も海も真っ青に澄み渡った小春日和、波静かな中海に釣り糸を垂れる。えさ付けと獲物をはずすのは仲間が手伝ってくれ、まるで殿様に気分。ハゼが食いついたときの、確かな手ごたえ。釣れるわ釣れるわ、これでは病みつきになるのも無理はない。つるべ落としの日暮れの早さが恨めしいほどだった。
 やがて海辺近くの家に引き揚げて、刺身、天ぷらで酒宴が始まる。そのおいしかったこと。投じは戦争中で、仲間といっても軍籍のない中年と初老の男性ばかり。男手が少なく、村役場へ私も狩り出されていた。夫は五年余りも北支を転戦中。国内では敗戦の兆しが濃く、耐え忍ぶことばかり強いられた辛い苦しい時代に、その日だけが別世界のようなよき思い出となっている。
 せかせかと釣り場を変えてもいっこうに釣れず、後で酒のサカナになった人。のんびりニコニコしながら一番多く釣った人---------彼は北海と号して書、彫刻をよくし、日に三、四回お茶を立てて飲むほどの風流人だった。皆いい人ばかりだったが、今ではあの世の人となっている。
 おりしも彼岸。ハゼつりに寄せて昔を偲ぶも仏様への手向けとなろう。
著者紹介 山本富子(やまもと・とみこ)

郷の味ごよみ −山陰の郷土料理−
1996年11月12日印刷
1996年11月18日発行


著者 山本富子
発行 米子今井書店
印刷 米子今井書店印刷工場
製本 日宝綜合製本株式会社

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