山陰・鳥取県 境港市(さかいみなとし)は鬼太郎をはじめとする妖怪と、サバ、アジ、カニなどのお魚が いっぱいのまち

春の味(3月〜5月)

郷の味ごよみ−山陰の郷土料理−  山本富子(やまもと・とみこ)著書より
3月
ワカメ、笹ガレイ
 海の幸に恵まれた山陰海岸でも特にすぐれものはワカメだろう。花便りにさきがけて春の訪れを知らせるのはワカメの走り。春の間、どこの家でもお茶受けは板ワカメで、寄るとさわるとワカメの品評が始まる。
 近年は乾燥状態が良いので焙る手間も要らないが、ちょっと遠火にかざすと磯野かおりは一段と高い。七輪の余熱に和紙の焙炉を乗せて焙るのが一番良かったのだが今では無理だろう。
 ふきんに包んで揉みほぐし、熱いごはんにまぜた”メノハ飯”はおにぎりにしてもよい。お茶漬けにしても美味しい。ほどよい塩味が決めてだが、透けるほど薄いものを選ぶのも大切。
 養殖物がだいたい終わる頃、天然物が出回る。軽くて持ち運びも便利なので郷土の土産として持参するのによく、郵送にも向く。細君は山陰以外でも板ワカメの良さが知られるようになったが、以前はせっかく進物にしてもあまり喜ばれずがっかりしたこともあった。
 塩ワカメ、搾りワカメとしても保存され、味噌汁、酢の物の材料に年中重宝する。若布茎(めくき)、若布株(めかぶ)も産地だからこそふんだんに入手できてありがたい。
 ワカメの風味をそのまま砂糖漬けに下ワカメ菓子は観光の土産として人気がある。
 土産物として喜ばれるものに塩物、干物が各地に何種類もあるが、中でも”笹ガレイ”の一夜干は笹の葉に似てすんなりと美しく、淡白な軽い味は誰にでも好まれる。

4月
松露・浜防風・イワシ
 花曇が雨を呼び、白砂青松の弓ヶ浜半島一帯が、絹糸のような雨に包まれてけむるころ、松葉からしたたり落ちる雫が変身したかのような”松露”が生える。
 松林の中の砂土が、僅かにひび割れして肌色の丸いキノコがそっと顔をのぞかせているのをみつけるよろこび。指先でほじると大小いくつもころがり出てくる。最近は皆生温泉などで高級料理に使われていて、採取されたものはほとんどその方面に出荷されて一般にあまり出回らないのが残念だが、その一種独特の香気と風味は知る人ぞ知る。弓ヶ浜のほかには出雲大社の付近や北条砂丘の松林にも生えると聞く。手篭一杯に採ってきては”松露飯”や、吸い物、卵とじにして、こんなおいしいものがまたとあろうかと幼いここっろにしみついた味。何かもっと増産するすべはないものか、次第に庶民から遠ざかるその味が惜しまれる。
 ”浜防風”(はまぼうふう)はせり科の多年生草本で海浜の砂浜に自生する香り高い草。嫩葉が食用になるので、春たけなわの頃、砂浜は浜防風摘みの人出が多い。紅色の茎に緑濃い葉が美しく、刺身のつまや酢の物に添えるのによく、塩漬け、酢漬けにして保存もできる。
 海では、タイ、サワラも旬になるがイワシ類が一番多く採れ、調理しだいでは高級魚も及ばない。小さいカタクチイワシの捕れたてを指で割いて海水で洗って食べたり、木の芽を添えたなます丹念に包丁でたたいたすり身で作るイワシだんごなど漁場風の素朴な味は捨てがたい。缶詰、目刺し、みりん干、煮干も加工場で量産されて各地へ出荷される。

5月
山菜・千鳥羹・つわぶき飯・大根島の味
 休日が続いて絶好の行楽シーズンに入り、山菜摘みが盛んになる。 
 タケノコ、ワラビ、ゼンマイ、山ウド、フキ、タラの芽、タキ菜など、大山、三瓶山はじめ春の野山は数限りない山菜の宝庫である。ワラビ狩りの楽しさを知るものは毎年季節がやってくると気もそぞろ。摘んできたワラビやゼンマイの野趣ゆたかな味はたとえようもなくおいしい。
 有名な山菜料理屋を食べ歩くのも楽しいもの。鳥取市の摩仁寺の門前の茶屋は雑誌「旅」にのって県外の客も多いという。
 出雲の名刹清水寺の境内のものは精進料理になっていて、長い歴史の生んだ格調の高さが感じられる。大仙の宿坊、三瓶高原のものも雅趣に富む。
 新しいところでは、西伯町の素人の主婦グループが調理してくれる盛りだくさんの献立の山菜料理で、渋い法勝寺焼きの器ともよく調和する。爛漫の花の季節を避けて、葉桜のころの清水寺から広瀬を訪ね、鷺の湯の美術館で、ツツジが咲き競う庭園を眺めて一服したあと、はじめたしった菓子が「千鳥羮」(ちどりかん)だった。安来の在で作られ、百年の風雪に耐えて伝統を守り続けたという。白地に点々とあずきを配して、千鳥の飛び交うさまを表し、羊羹らしくなくしかもまろやかな甘味が舌にとろける。これほどの銘菓がこの草深い地にあったことを迂闊にも知らなかったことが悔やまれた。練り加減が一子相伝の秘伝とされ量産のできない隠れた味も興味深い。
 大根島の牡丹はこの時期が真っ盛りで訪れる人も多い。豊かな中海の七味に取りかこまれた島は四季折々、ウナギ、サヨリ、エビ、赤貝、モズクなどきめ細かい味に恵まれている。

著者紹介 山本富子(やまもと・とみこ)

郷の味ごよみ −山陰の郷土料理−
1996年11月12日印刷
1996年11月18日発行


著者 山本富子
発行 米子今井書店
印刷 米子今井書店印刷工場
製本 日宝綜合製本株式会社

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