山陰・鳥取県 境港市(さかいみなとし)は鬼太郎をはじめとする妖怪と、サバ、アジ、カニなどのお魚が いっぱいのまち

夏の味(6月〜8月)

郷の味ごよみ−山陰の郷土料理−  山本富子(やまもと・とみこ)著書より
6月
エノハ・アゴ(トビウオ)・鮎
 榎の葉が繁る頃から落葉する秋までの間が最高においしいので”エノハ”というのだそうだが、他の地方ではあまり見られない。
 柳原敏雄氏の著書に全国の魚介を紹介したものがあるが、エノハだけは見当たらないので山陰の特産かも知れぬ。それだけに故郷の味という感じがいっそう郷愁を誘う。
 身の薄い小魚で食べるのは面倒だがこの魚の旨さにとりつかれたものには少しも苦にならない。
 境港出身の女優、司葉子さんもこのエノハのファンと見えて「エノハの煮たのを送ってもらって食べると気分の悪いのもいっぺんにふき飛んでしまうと」言っていた。
初夏の魚、アゴ(トビウオ)の走りが姿を現すのもこの頃で、その瑠璃色に光る体と大きな胸ビレは早くも真夏の海を思わせる、“アゴ野焼き”は山陰の名物として駅売りもされる。色が黒いのはスケソウの練り物とは一味違う手作りの味が嬉しい。
 鳥取市界隈には“豆腐竹輪”というのがあって郷土風の味が評判だが、この季節だけ同じ店でアゴ竹輪も作っている。
 山陰を流れる河川の上流ではアユが解禁になりアユつりの人で賑わう。香魚といわれて香りを賞でるのは青菜の緑が目にしみるころの若アユ。清流から釣り上げた天然物は溌剌としていかにもさわやかな味。八月、九月のものが脂がのって最もおいしく、やがて産卵期の落ちアユとなるが、通は落ちアユが一番という。塩焼きにダテ酢をくわえたものがよく、保存には粕漬けも適する。八頭郡の河原に名物“アユの姿ずし”がある。季節によってそれぞれ赴きの違う味がアユの魅力とも言える。

7月
そうめん流し・ウナギ・スズキの洗い
 松江の市街地から車で五分くらいのところに、熊井の滝がある。小規模の滝だが、嵩山(タケサン)系に降った雨が地下水となって湧き出るもので、滾々と尽きることのない清水は水質がよく、手が切れるように冷たいところから、地元の人がそうめん流しに適したものであることに着目した。炎天下、本庄街道を走る車が、涼を求めてかけこむのに絶好の場所で、そのあたり一帯は、空気がひんやりしてまるで深山のような趣がある。滝の水をひいて流すそうめんを箸ですくい上げて、からしの利いたつけ汁で食べるのがなんとも風雅である。水の冷たさもちょうど適当なのであろう。そうめんのまざった落とし水でニジマスを養殖していて塩焼きにしてくれるのもいい。
 もっと環境が整備されてここでウナギが食べられるとなおよかろうと思う。出雲ウナギといえば昔は有名だったらしいが、今でも宍道湖畔の地味な小料理屋で思いがけず本物のウナギに出遭うことがあり、天然の出雲ウナギの名残をとどめている。ウナギは夏バテをふせぐスタミナ食として愛用され、土用の丑の日にはウナギ屋さんは大繁盛。夏の味覚の代表的なもので中海七味の筆頭に挙げられる。

8月
アオデガニ・バイ・隠岐の味
 ツユクサが朝露を含んで可憐に咲くころ、その花の色のような美しい模様のハサミを持つアオデガニが捕れ始める。”ガザミ”というのが本名らしいが、両袖がとがって菱形をしているので”ヒシガニ”という地方もあるという。東京湾や三河湾、瀬戸内海でもいくらか捕れるとか。松葉ガニやベニズワイガニが休漁の期間、最も多く捕れるのでうら盆の帰省客には何よりも喜ばれる。
 夏の初めに中海で産卵し、だんだん成長して美保湾に出てくる。カニ網からはずしたばかりのブクブクと泡をふいているものを真っ赤にゆで上げて二杯酢で食べるのがさっぱりとおいしい。甲羅をはずすと胸部に肉がいっぱい詰まっている。卵を持ったメスガニの味もオスにおとらずコクがある。
 満月の頃、やせて身の少ないものがとれることがあるが、これは俗に”月夜ガニ”と呼ばれているもの。月明りに映るおのれの姿の醜さを恥じて穴にこもりエサをとらないのだと言い伝えられるが、本当は月に浮かれて夜遊びが過ぎるからだとの説もあり真偽のほどはわからない。
 ”バイ”という巻貝をバイ籠で捕るのもこの頃だが、これも他の地方ではあまり見られずこの地方特有のものらしい。富士の越中バイというのと似たところもあるが少し違う。塩ゆでにして薄い蓋を取り、楊枝でからめて引き出し、塩をつけて食べるのが持ち味を生かした食べ方。
 七月、八月、観光客がどっと押しかけて予約なしでは宿もないほどの賑わいとなる隠岐の島にも、数々の旨いものがある。四方を海に囲まれ、魚介類の新鮮さは何よりの魅力で、イカ、ウニ、アワビ、サザエその他隠岐ならではの潮の香りに満ちた味覚がいっぱい。西郷港の波止場で流れる哀調切々の「しげさ節」も、国賀で食べたサザエ飯や、もずくの酢の物も、その海岸の類い稀な絶景とともに忘れ得ぬ隠岐の味であった。

著者紹介 山本富子(やまもと・とみこ)

郷の味ごよみ −山陰の郷土料理−
1996年11月12日印刷
1996年11月18日発行


著者 山本富子
発行 米子今井書店
印刷 米子今井書店印刷工場
製本 日宝綜合製本株式会社

04369
観光に関するお問い合わせは…
境港市観光協会 観光案内所 〒684-0004 鳥取県境港市大正町215 みなとさかい交流館1F
TEL 0859-47-0121 FAX 0859-47-0122 E-mail info@sakaiminato.net

視察、取材、その他の業務に関するお問い合わせは…
境港市観光協会 事務局 〒684-0046 鳥取県境港市竹内団地255-3
TEL 0859-47-3880 FAX 0859-47-3885 E-mail jimuinfo@sakaiminato.net
水木しげるロード視察のご案内